※エイプリルフール※おとぎ話のようなニホンザル|笑い泣き猿に連れられて

都会から田舎に移住するということは、生活環境が大きく変化するということです。

都市の暮らしでは想像も出来なかった事態に遭遇することがあり、それはこれまでの人生で形成してきた価値観を根底から揺さぶる出来事になることもあります。

 

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上に書いた記事なんかも、僕をハッキリと変えた出来事だったといえそうです。

ちょっと信じられないような体験をしたので、今日はそのことを書こうと思います。

※ひょっとしたらこの記事は削除するかもしれません。

僕には遠くの見知らぬ人間の嘆きよりも、身近にいる猿たちの悲鳴の方がよく響くようです。

でも僕がこれまでに彼らに出来たことは何か一つでもあっただろうかと考えてみたところで、思い浮かぶことは何もありません。

僕の作った作物を彼らが奪って食べたことが、辛うじて彼らのためになったといえるのかもしれません。

しかし、今日僕は初めて彼らに対し、明確に力を貸せるチャンスを得たのだと思います。

僕がこれからやろうとしていることは、人様の屋根の上でだらしなく寝そべったり、誰かの畑を荒らしたりする厄介者の猿を助ける行為であり、また人間社会に対しては明らかな「反逆行為」となります。

この記事を書き終わるまでに僕は、「人間」「猿」かどちらの世界の常識に沿って今後生きていくのか、どちらにせよ腹をくくらなくてはなりません。

先ずはことの始まりから書きます。

この時期は昼過ぎまで眠っていることが常だというのに、

「パチッ、」「コロコロコロ…」「パチッ、」「コロコロコロ…」

得体の知れない音がトタン屋根の上で鳴っているため、目が覚めてしまいました。一定の周期で聞こえてくるこの異音は鳴り止むことがありません。

101回目の「パチッ、」「コロコロコロ…」が過ぎた辺りから、

「ドスン…、ドスン!」

何か質量のあるものが小屋にぶつかっては、それを繰り返すようになりました。

夢現つの僕は、「土嚢袋」が振り子のようなものに繋がれ、小屋の外壁に規則正しく降ってくるという夢をみていました。

やがてその「ドスン…、ドスン!」の合間には、

「ガシャガシャガシャ…」

金属を擦り合わせる音が混ざり出し、終いには、

「ドンドンドン!」

小さな音ですが、明らかに誰かが小屋をノックする音が聞こえて来ました。

 

「郵便屋さん!?」

 

僕は寝不足と酷い花粉のため、心と身体に見えない重りをぶら下げたような状態のまま、ロフトを降りました。

 

そして小屋の扉を開けて絶句しました…。

 

玄関先の小さな木製パレットの上には、山ほどの「ドングリ」が敷き詰められており、ところどころには、「じゃがいも」「大根」「白菜」「ネギ」など、どこかの畑から収穫してきたばかりといった作物までが置かれていたのです。

なにより驚いたのは、視界に収まり切らない数の猿たちの群れです。

眠っている間に、「猿の群れ」に僕の小さな小屋は囲まれていたのです。

 

軽く見積もっても20~30匹もの猿が一斉に僕を見つめました。

僕は慌てて扉を閉めました。

心臓は早鐘を打っています。

これはなにが起きているのだろうか?

一旦落ち着いて状況を把握しようとしましたが、僕にはその暇が与えられませんでした。

「バチバチバチバチバチバチ…」

猿たちが一斉にドングリを小屋に向けて投げつけたのです。

 

「分かった、分かったから!」

 

僕は両手を頭の高さまで上げ、手のひらを相手に向けた状態で小屋を出て行くしかありませんでした。

すると群れの中から、大きな「大根」を持った一匹の猿が慌てた様子で僕の前に飛び出して来ました。

大根を僕の足元に投げたかと思うと、その猿は唐突に歯を剥き出し、笑っているようにも泣いているようにも見えるへんてこな表情を僕に向けました。

僕はパニックを起こしてしまい、何も考えることができませんでした。

口の開いたままの間抜け顔の僕に、先程の猿は近くにあった「じゃがいも」「ネギ」を拾っては僕の足元に投げ付けてきます。

それら足元の野菜をみて、僕は咄嗟に今晩のメニューを頭に思い浮かべてしまいました。これほど綺麗に現実逃避をしたのは生まれて初めてだと僕は僕と心のなかで会話をします。

笑い泣き顔の猿は畑の収穫物を僕に投げつけてくるし、他の猿たちはドングリを投げつけるのは止め、今度はせっせと集めては木製パレットの上に上手に積み重ねていくのです。

すると笑い泣き猿は徐々にバックステップをして僕から遠ざかっていきます。ジャンブする度に両手を重ねる姿は、まるで僕に手を合わせているようにも見えます。

それでも僕はその場から動けないでいると、猿は再度僕に近寄って来て、足元に「ネギ」やら「じゃがいも」の収穫物を放ってくるのです。

そして拝みながらのバックステップです。

 

笑い泣き猿の奇怪な行動を何度か繰り返し見ているうちに、もしかしたらこれは僕を何処かへ誘導しようとしているのではないかと思うようになってきました。

野生動物と意思の疎通が図れているというのは、非現実的で、実に気味の悪いものでした。

それでも靴に履き替えてからバックステップする笑い泣き猿の方へ近付いていくと、猿は目を見開き、再度カパッと歯を剥き出し、笑い泣き顔をしました。

鈍感な僕もここまでされれば気が付きます。

恐らくこれは、この集団にとって非常に大変な事件が起きているに違いありません。

そう思うと僕の身体ははカッと熱くなり、力が漲ってくるのが分かりました。

この時既に、僕は彼らの力になりたいと心の底からそう思っていました。

 

猿の集団はアスファルト道路など見えないかのように、目的地に向けて森を真っ直ぐ突き抜けて行きます。

木から木へと器用に渡っていく猿たちに置いていかれないように僕も必死で走りました。心臓は今にも破れてしまいそうだったし、「ゼーゼー」という高音域で鳴っている呼吸音はまるで悲鳴のようです。

それでも必死に喰らいついていくと馴染みのある道路が見えてきました。

そこで僕は確信しました。

この道の先には4畳半ほどもある巨大な檻があります。これは動物を捕獲するためのトラップです。檻の一番奥にはリンゴや人参などが吊るされていて、これに触れると重たい鉄扉が降りる仕組みです。

僕はこの檻に動物が捕まっているところを見たくはないからと、いつしかこの道は使わなくなっていたのです。

 

やはり僕の考えは的中していました。

この檻の中には、巨大な猿と、その腕の中にはまだ幼い小猿が一匹、大事そうに抱かれていました。

必死に逃げようと頑張ったのでしょう、巨大な猿の手足は血だらけだったし、鼻先からも血が滴っています。

 

僕が見えた瞬間、彼は鋭利な牙を剥き出し、威嚇しました。

ここまで大きな猿だと、まともに戦って敵う相手ではないと思いました。

 

笑い泣き猿が必死に僕らの間に入って仲裁をしてくれているようです。

他の猿たちも「きぃきぃ…」と寂しそうな声を上げています。

 

僕がこの檻を開け、猿を逃がすことは簡単だと思いました。

でも、この檻を開けることは本当に正しい行いといえるのだろうか?

 

僕は泣き笑い猿に、

「考えさせろ!」

少し強めに言い放ち、檻の前で胡座を組み、目を閉じました。

僕が最も落ち着いて物事を考えられる場所はインターネットの中にありました。

iPhoneで「森のテロル」の日記を書くことで冷静な自分を取り戻し、後悔の残らない選択をしようと思ったのです。

僕はこれから100kg以上ありそうな鉄の扉を背筋を計る器具を引っぱるようにして持ち上げ、空いた隙間に足を使って石を挟み込むつもりでいます。

僕がその場を離れれば、直ぐにでも捕らえらている2匹の猿は逃げ出すことが出来るだろうと思います。

ただ、これをしてしまったら僕はこの集落で住み続けることが難しくなるかもしれないし、最悪は警察に突き出されることもあり得るのです。

一度でも犯罪に手を染めることは、「たが」が外れるということです。

僕は今、自分で自分の「たが」を外そうとしているのです。

 

正しいって一体なんだろう?

誰の目線で物事は決まっていくのだろうか?

 

僕は僕独自の秩序に従おうとしています。

きっとそれは誰にも理解されず、僕はこれから孤独の極地に落ちていくのかもしれません。

 

僕は鉄の扉に手を掛け、、

 

一日中降り続けた雨は夜半になって雪に変わりました。

これだけの野菜があれば食べるには困らないけど、畑を荒らされた農家は僕の家に野菜を取り返しにくるだろうか…。

 

[一年前]

※来年もあるなら、次は明るい奴にしよう。