元号の切り替わる瞬間に立ち会うというのは初めてのことだったので、少し感動していたのですが、実際に切り替わるのは一ヶ月後の5月1日だそうです…。
暦は4月に入りましたが、今日はお昼すぎから雪が降ってきました。
ちょうど近くの別荘地を散歩していたので、どこかでコーヒーでも飲みながら暖を取りたいと思いました。
しかしこの辺りにはそのようなお店はありません。
僕は子供の頃から一休さんが好きだったので、ここは「とんち」だなと思いました。
この辺りに林立する別荘には、何故かなかなかの確率で玄関前に、「Welcome!」と書かれたプレートが掲げられています。
ここは馬鹿な振りをして、呼び鈴を鳴らしてみようと思いつきました。
「Welcome!」と掲げている家の何軒かに一軒くらいは、話し相手にでもしてやろうと家に招き入れてくれるかもしれません。
まずは一軒目のお宅の呼び鈴を鳴らしました。
「どちら様でしょうか…?」
玄関から現れたのは、白髪で小柄な、優しそうなおばあちゃんでした。
不思議そうな顔をしていましたが、僕が笑顔だからか、おばあちゃんも少し笑っていました。
「Welcome!と書かれていたので、何かなと思って来てみました!」
僕は屈託のない笑顔を絶やしませんでした。
「ああ、そういうことだったのね。」
僕の言わんとすることを理解したおばあさんは、
「いいわ、ではコーヒーでも飲んでいきますか?」
そういってくれたので僕は素直に、
「ありがとうございます!!」
といいました。
コーヒーを飲みながら、実は寒さを凌ぐ為の「とんち」だったことを明かしました。
おばあさんは怒るどころか、お腹を抱えて笑いました。
薪ストーブのパチパチと爆ぜる音を聴きながら、センスの良い革張りのソファーに腰を埋めてお喋りをしていたら、あっという間に数時間が経っていました。
僕はそのまま夕食までご馳走になり、帰りしなには手作りのパンケーキまで持たせてもらいました。
「またいらっしゃい!」
白髪のおばあさんは、僕に死んでしまったという息子を重ね合わせていたのではないかというくらい、僕を「Welcome!」してくれました。
「Welcome!」と書かれた家を見つけたら、僕はまた呼び鈴を鳴らしてみなくてはならなくなったような気がしました。
4月1日(エイプリルフール)の夕焼けは、とても綺麗に見えました。