父親の影響だろうか、ドラゴンクエスト１のフィールドを歩いている時の音楽をビブラートを効かせ、気持ちよさそうに歌いながら場内を歩きスマホするお兄ちゃんと、カゴメカゴメと少し病的な歌を口ずさむ妹がいる家族がチェックアウトして行きました。彼らはリピーターなのですが、非常に変わっていました。
何が変わっているのかというと、この兄妹は、食べたお菓子やアイスのゴミを場内にポイ捨てし続けるのです。
見咎めると、「スミマセン」と素直に謝るので、なんだいい子じゃないか、と安心するのですが、彼らの謝罪の言葉はその場しのぎでしかなく、結局ゴミのポイ捨ては止めてくれませんでした。
それでも仕事なので、見つける度に注意をしていたら、終いには岩の隙間や石を持ち上げた下にゴミを入れたりと、手口は巧妙化していきました。
彼らは沢山いる他の子供たちと打ち解けることなく、それぞれが一人で場内をふらついているばかりです。
僕が声を掛けても、他の人が笑いかけてもまるで興味を示しません。どうしたものかと困っていましたが、二泊三日でチェックアウトして行ってしまえば、もうしばらくは会うこともありません。両親はこれからもずっとこの兄妹の世話をするので、大変なんじゃないだろうかと思いましたが、そもそもこの兄妹の悪癖は両親の躾によるところが大きいと思うので、案外親は気にしていないのかもしれません。
子供をみたら親を想像出来るというのは結構当たっていると思います。
子供なのにしっかりと敬語を使える子、扉を開けたらきちんと閉められる子、初めて会った他の家族の子供でも、しっかりと面倒を見れる子。
反対に、他の子供のラジコンを取り上げてしまう子、暴力的な子、落ち着きがなく、周りを気にせず大声を出してしまう子。
本当に沢山の子供がいますが、そんな子供たちの親をみると、「なるほど」と思ってしまうことがあるのです。
まぁ、僕は子供の世話ばかりをしているわけにはいきません。
今日から５日間はカレンダー上でもしっかりと休日なので、お客さんの数が半端ではありません。もうずっと全ての部屋が満室です。
次から次へと訪れるお客さんの車を誘導をしていると、数台に一台はリピーターで、「ああ、◯◯さん、お久しぶりです」となります。
僕からすれば、何千人（シーズンを通しての来場者数）の中の一人ですが、お客さんからすれば、数人しかいないスタッフの中の一人なので当たり前ですが、お客さんの方がよく覚えています。
出来るだけ名前を思い出そうとしますが、顔は分かっても名前まで思い出せる人は稀です。
今日はいつも一人で来る、釣りが目当てのオジさんから、「オーナーには内緒でカバンに入れろ」と、お土産の煎餅を貰ったり、美容師の奥さんからは機織り機で織ったという、スカーフのようなものをいただきました。
僕がお客さんに何を貰おうが、オーナー夫婦は「やったじゃん」とか、「よかったね」というくらいなので、僕はさっそく、「釣りのオジさんに煎餅を貰いました。オーナーには内緒でカバンに入れてしまえと言われているので、知らない振りをしておいて下さいね」といったり、スカーフを首からぶら下げ、「これを巻いているとスタッフ感半端なくないですか？」と自慢したりしました。
場内を歩いていると、気がつけば顔見知りの数がとても多くなったことに気が付きます。
考えてみれば僕はこの職場で働いてもう４年目なのです。毎シーズン働き続けているので、顔見知りが増えて当然なのです。
僕は仕事をしているので、基本的には笑顔で溌剌としていることを心掛けています。仕事用の人格と言っても良いのかもしれません。その為僕のようなものでも、それなりに見えるのかもしれません。
人付合いをあまりせず、小屋で小さく暮らしている素の僕を知ったら、リピーターの皆さんはどう思うのだろうかと思うことがあります。
そして僕自身、本当はどんな性格の自分でいるのが心地よいのか、分からなくなってきています。
これはこれまでの僕の生き方が関係しているのだと思います。
色々な場所に引っ越したり、職場を幾つも変えたりと、環境に合わせて僕はカメレオンのようにコロコロと性格を変え、その場に順応しようとして来ました。
これが一番楽なのだと、誰に教えられた訳ではありませんでしたが、いつの間にかこんな癖がついていました。しばらくこんなことを繰り返していた為に、他人と自分を隔てる確固たるもの、つまりアイデンティティを失いかけていたのです。
これに気が付いた時はとても苦しみました。
結局は深く内省すること以外に、自分を救う方法はなかったように思います。
そんな過去のことを思い出し、僕はまた初心に戻って自身を省みる必要があるのかもしれません。
しかし今は忙しいので、GWが終わって暇になったら、そんなことをしても良いのかもしれません。まあやらないだろうけど。
【購入者：アメリカ人✕１】
