[悶絶!]変性意識に逃げ込む痛さ(1/2)

「自分の痛みを”癒しの光”だと想像するのです」

これはデヴィッド・フィンチャー監督の、[ファイトクラブ]という映画の中で、大病を患っている患者たちの痛みを取るための、催眠療法のような会合での一コマで出てくる言葉です。

主人公のエドワード・ノートンは、ナビゲーターの言葉に誘われ、氷に覆われた洞窟の中でペンギンをみるという想像をします。

映画「ファイトクラブ」より





もうすっかり良くなりましたが、僕は子供の頃から大人になるまでの間、とても寝付きが悪く、これが悩みの種となっていました。

学生時代のこと、当時住んでいたマンションの一階部分で営業していたレンタルショップで、[リラクゼーションの森]というミュージックセラピーのCDを借りてきたことがあります。

※インターネットで探してみましたが、どうしても見つけることが出来ませんでした。

このCDは、布団に入って目を閉じることから始めます。

ナビゲーターの言葉に従って深呼吸をしたり、両手足が重たいと感じたりしながら、最終的には不思議な森のなかの小川で、クリスタルウォーターを飲むという内容になっています。

このCDの目的は、質の良い眠りに誘うというものだったので、寝付きの悪い僕はこのCDにすがったのです。

このCDを聞いて眠るという習慣は、シリーズを変えながらも数年は続きました。

この数年で身に付いた特技?なのかもしれませんが、僕はどんなときでもすっと気持ちを落ち着けることが出来るというか、大袈裟にいえば、容易に変性意識に近い状態に入ることが出来るようになったのです。

その後インドのアシュラムでメディテーションやヨガ体験もしましたが、このCDによるミュージックセラピーの方が、僕には良い効果をもたらしたような気がしています。

 

昨日のことなのですが、久しぶりに変性意識の世界に逃げ込まなくてはならないほどの強烈な痛みに見舞われたので、そのことを書いていこうと思います。

 

 

そういえば少し前から違和感のあった左下の奥歯が痛み出し、その痛みは歯を磨いて眠る段になっても治らず、ロフトに上がって布団に入ってからは更に痛み出してしまい、遂には頭痛まで併発しました。

以前歯のクリーニングに行った時は確かに虫歯は無いと診断されたし、大人になれば歯は硬くなり、そうそう虫歯にはならなくなると聞いていたというのに、これは一体何でなのだろうかと思いました。

僕は歯磨きに費やす時間も長く、タフトブラシやコンクールなどのオプションもつけているので、どうにも解せないというか、こんなに気を使っているのに虫歯になるなんてと、悔しい思いで一杯になりました。

 

目をつぶって寝ようとしても、歯の痛みで眠気のねの字も訪れませんでした。

あまりにも痛いので、ロフトを降りてバファリン的な薬を規定錠飲んだり、正露丸を痛い歯の両脇に押し込み痺れさてみたりしました。

この激しい痛みが続くとすれば、自分で痛む歯を抜いてしまいたいという衝動に駆られるか、壁に頭を叩きつけるなどの自傷行為に走るかしてしまいそうだと、少し本気で思ってしまいました。

そういえば、長年日本に帰ってこなかった友人の帰国理由が、免許の更新と“歯医者”だったことが、身に沁みて分かりました。

 

布団に入って目を閉じていても眠れないので、仕方なくiPadを開き、自炊したHUNTER×HUNTER(蟻編)を読んでいたのですが、10分くらいするともう我慢できないくらいの歯痛&頭痛に襲われ、その度にロフトを降り、またバファリン的な薬を追加で飲んだり、正露丸を詰め直したりしました。

何故かロフトを降りると痛みがすっと消え、また布団に入ってiPadを見ていると、10~20分くらいで痛みがぶり返すのでした。

これはきっとiPad画面の強い光が歯痛を誘発するのではないか思ったので、今度痛みが引いたら、もうiPadは開かずに布団に入って目を閉じようと思いました。

もう外は明るくなっていたので、痛みが再発するまでに何とか寝てしまおうと思ったのです。

 

まず僕は、日頃バファリン的な薬を飲まないことを殊更に言い聞かせることで、自分には効果はてきめんであるとを思い込ませることにしました。

実際、正露丸を歯に詰めることも、バファリン的な薬を規定量以上に飲んだことも初めての経験だったのです。

このような自己暗示をかけた後、閉じた両目の中心から数センチ上がったところの、更に奥の方に意識を集中し、かつてのようにすっと変性意識状態のような世界に入ることにしたのです。

一度自転車に乗れるようになれば、その感覚はそうそう忘れないのと同じように、僕はすぐに夢現のような世界に落ちることが出来ました。

※単純に眠ってしまっただけなのかもしれません。

 

入った世界は、昭和を思わせるような雰囲気の商店街で、その場にいる人々の時間は完全にストップしているようでした。

上空から柔らかな光がシャワーのように放射線状に伸びている中心で、ゆったりとした衣装をまとった女性だけが、バレリーナのように舞い踊っています。

その動きは水中を思わせるようにひどく緩慢で、その女性は海底に沈んでいくようなスピードで、逆に光の中に吸い込まれていくように登っていくのでした。

僕はそのような非現実な世界を想像し、多幸感に包まれていました。

さっきまでの痛みで苦しんでいた世界がまるで嘘のようです。

 

なんて幸せなのだろう…。

このまま目が覚めなければ良いのにな…。

 

無音だった世界に浸っていると、まるで心臓の鼓動のような音が遠くの方で生まれたことに気がつきました。

その途端、、『あ、やっぱり無理…。』

激しい歯痛は、いとも容易く僕を現実の世界に引き戻すのでした…。

 

つづく…。



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