僕のツナヨシ|中年の兄弟喧嘩

ある時から綱吉は鼻炎持ちになりました。

室内飼いになって久しい親猫のクロが風邪をひいてしまい、あっという間に子猫3匹に感染してしまったのです。

それ以来綱吉は万年鼻づまりだし、くしゃみをしては鼻水をあちこちに飛ばすようになりました。

猫がガラス戸から外を眺めていると濡れた鼻先がガラスに触れて汚くなります。これの後始末も厄介ですが、飛んだ鼻水を拭いて回る作業は輪をかけて大変です。

どんなに綱吉が可愛い猫だとしても鼻水を拭いて回るのは大変だったので、彼がくしゃみをする度に「ワー」とか「モー」とか、少しだけ大きな声が出ていたのだと思います。

身体のサイズの違いを考えれば、猫には僕の声がとても大きく感じる筈です。

 

綱吉?と思った人の為に、少しだけ紹介をします。

綱吉は4匹いる猫の中で一番頭の良い雄猫です。

頭の良さには幾つか種類がありますが、ここでの頭の良さは「理解度」とします。

名前を呼んで出て来る猫は綱吉だけだし、僕が忙しくしている時に距離をとれる猫も綱吉くらいかもしれません。

そんな頭の良い綱吉は、自分がくしゃみをして鼻水を飛ばす度に僕が大きな声を出すので、そのうちに自分の「鼻水」について考えるようになったようです。

しばらくして綱吉はクシャミをして飛ばした鼻水を自分で舐めて回るようになりました。

表情の少ないといわれる猫ですが、鼻水を飛ばしてしまった瞬間の綱吉は、いかにも「しまった!」という表情を浮かべます。

 

綱吉のいじらしさに僕は変わりました。

大きな声を出してしまっていた自分に恥じ入り、それからは意識して大きな声は控えるようになりました。

 

しかし綱吉は何年経ったいまでも、鼻水を飛ばす度に、自分で舐めて掃除をしてくれます。

そんな可愛くてたまらない綱吉を尻目に、ミシェルは豪快にくしゃみをしては鼻水を飛ばして走り回り、近くを通れば「撫ぜろ」と喚き散らします。

マイペースなクロはもうずっと外を眺めているし、ロフトの陰から僕を盗み見ているトラは、僕が近付くと未だに、「アッ、シャー」と威嚇をしてくることがあります。

今日は清里高原へ遊びに行きました。

数百メートル標高が上がるだけでこれほど寒くなるのだと、清里に行く度に思い出します。

清里方面には美味しいパン屋が幾つかあるので、帰りに2軒のパン屋を回り、その後はコインランドリーに寄って、最後に飲水を汲んで帰ろうと思っていました。

コインランドリーまでは順調だったのですが、最後の水場は観光客に占拠されていました。

そういえばこの時期になると現れるかき氷屋さんには長蛇の列が出来ていました。

観光シーズンはもう始まっていたのです。

 

仕方ないので一旦小屋に戻りました。

買ってきたパンはとても美味しくて満足だったのですが、同時に普段食べているスーパーのパンが不味いと思うようになりました。

高額で手が出ないフルーツと同じように、美味しいパンも毎日は買えません。

やはり何でも自分でやれるようになれば、ローコストでも質の高い生活が送れるようになるのかもしれません。

 

その後は油断して久しぶりに昼寝をしてしまいました。

慌てて目を覚ましましたが、辺りはまだ明るかったので安心しました。しかし時計をみると18時を回っています。

車に飛び乗り飲水を汲みに行くと、今度は昼間の混雑をかわして水汲みしようという考えの人たちの列が少しだけ出来ていました。

ぼーっとして列に並んでいると、水を汲んでいた中年男性2人がいがみ合っていることに気付きました。

成人同士のいがみ合い現場はレアです。

周囲にちょっとした緊張が走るような錯覚を覚えましたが、よくよく観察してみると、その2人からは兄弟特有の距離の近さがあることに気が付きました。

いがみ合っているのかと思った彼ら2人のやりとりには、まるで大昔の幼かった兄弟の姿を彷彿とさせるものがありました。

また、駐車場に停められた数台の車の中には、難解な漢字の組み合わせをチーム名に掲げた派手なものがあり、僕は当て字のようなチーム名の読み方をあれこれと考えていました。

 

おしまい。







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